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ミツキ
GARAGE3
ハーレーダビッドソンクルーザー絶版2009-2022

50kg軽い入り口。アイアン883は身構えなくていいハーレー

この記事のポイント

ハーレーは大きくて重い、という思い込みを崩す一台。アイアン883は883ccで256kg、Low Rider STより50kg軽く、シートも低い。音と鼓動はハーレーそのままなのに、扱いは驚くほど気楽です。名前の由来と、この素っ気ない見た目が生まれた理由もまとめました。

ハーレーって、大きくて重くて、覚悟がいる乗り物だと思われがちです。わたしも乗るまでそう思っていました。

先週、ナギ姐さんの店でその思い込みがひっくり返りました。閉店間際のシャッターの前に、黒いスポーツスターが1台だけ残してあったんです。

閉店間際のショップ前。装飾がないぶん、光の当たったフチだけで形が分かる
閉店間際のショップ前。装飾がないぶん、光の当たったフチだけで形が分かる

Harley-Davidson XL883N Iron 883、通称アイアン883。クロームがほとんどありません。タンクもエンジンもマフラーも黒で、ハーレーのイメージにある煌びやかさが一切ない。

ナギ

「乗ってみる? 鍵、ここ」
ナギ姐さんです。ウエスで手を拭きながら、キーを放ってよこしました。

またがると、身構えなくていい

お言葉に甘えて跨らせてもらいました。

腰を落とした瞬間、気負う必要がないと分かる。ハーレーの入り口としてはかなり優しい
腰を落とした瞬間、気負う必要がないと分かる。ハーレーの入り口としてはかなり優しい

腰を落とした瞬間、「あ、これは気楽だ」と思いました。

わたしはふだん Harley-Davidson Low Rider ST(うちの子はロウさんと呼んでいます)に乗っています。あちらは1923ccで306kg。取り回すときは毎回それなりに気合いが要ります。

アイアン883は883ccで256kg。50kg軽いんです。数字で書くと地味ですが、押して向きを変えるときの感覚がまるで違いました。ハーレーというより、大柄な国産ネイキッドに近い感覚で扱えます。

シートも低い。乗車状態で653mmなので、ロウさんの686mmよりさらに低いことになります。跨ったまま足の位置を探さなくていいというのは、想像以上に気持ちがラクでした。

「これ、思ったより身構えなくていいですね」

「そうだよ。初めてのハーレーで選ぶ人、多いから」

納得しました。ハーレーに乗りたいけど大きさが不安、という人がまず手を伸ばすのがこの車体なんだと思います。

「アイアン」は鉄のことじゃなかった

跨ったままエンジンを眺めていて、前から気になっていたことを聞いてみました。

「アイアンって、昔の鉄のヘッドのやつから来てるんですよね」

ナギ

「違うよ。ヘッドはアルミ」
そう言って、シリンダーヘッドを指の関節で軽く叩きました。「鉄だったのはアイアンヘッドの時代。これはエボだから」

アイアンヘッドというのは、1957年から1985年まで作られた初期のスポーツスターのエンジンの通称です。シリンダーヘッドが鉄で出来ていたから、そう呼ばれました。空冷ハーレーの歴史のなかでも神格化されている世代なので、「Iron 883」はその時代へのオマージュなんだろうと、わたしは勝手に思い込んでいたんです。

「じゃあ、なんでアイアンなんですか」

「見た目の話じゃない? 鉄っぽいでしょ、これ」

言われて改めて見ると、たしかにそうでした。黒くて、素っ気なくて、塊に見える。歴史ではなく質感を指した名前だったわけです。

音と鼓動を、体で受け取る車体

この車体の本題はここからです。

空冷Evolution。フィンもプッシュロッドも隠されていない
空冷Evolution。フィンもプッシュロッドも隠されていない

883ccの空冷Vツインで、最高出力は54馬力。ロウさんの約105馬力の半分ほどです。数字だけ見れば物足りなく見えるかもしれません。

でもこのバイクは、速さで気持ちよくなる設計になっていません。低い回転で車体をドスドス揺らしながら、音と振動を体に伝えてくる。その揺れそのものが商品なんだと思います。信号待ちでアイドリングしているだけで楽しい種類の乗り物です。

しかも、その仕組みが全部見えている。

ナギ

「触ってみ。まだ熱いから」
言われるままフィンに手を近づけると、面ごとに温度が違いました。「どこが熱いか手で分かるでしょ。それが空冷のいいとこ」

冷却水の配管がなくて、シリンダーの外にフィンが並んでいて、プッシュロッドが斜めに伸びているのがそのまま見える。何がどこで動いているのか目で追えます。わたしも整備は自分でやる派なので、この「隠されていない」感じはありがたい構造でした。触りながら覚えられます。

なぜ、こんなに素っ気ないのか

店を出たあと、この見た目の理由が気になって調べました。

アイアン883が出たのは2009年です。その前年、2008年から、ハーレーは「ダークカスタム」という取り組みを始めていました。メーカー自身がカスタム前提の車体を作って、しかも安く出すという戦略です。

それまでのハーレーはクロームで威厳を出す方向でした。そこにあえて逆をやった。クロームを剥いで、黒くして、装飾を落として、その分を価格で返す。先陣を切ったのが2008年型のXL1200Nナイトスターで、翌年その思想を883ccに落とし込んだのがアイアン883でした。

つまりこの素っ気なさは、手を抜いた結果ではなく狙って削った結果です。買った人が自分で足していく余地として空けてある。だから今見ても古びていないんだと思います。

数字で見るアイアン883

エンジン

空冷 Evolution Vツイン(OHV・プッシュロッド駆動)

排気量

883cc

最高出力

54馬力(40kW)/6,000rpm

車両重量

256kg(装備)

シート高

653mm(乗車状態)

変速機

5速(ファイナルドライブはベルト)

タンク容量

12.5L

タイヤ

フロント 100/90B19 / リア 150/80B16

製造年

2009〜2022年(絶版)

数値はハーレーダビッドソン公式のメディアキット(2022年モデル)によります。

タンクが12.5Lなので、航続距離は長くありません。5速なので高速を淡々と流すのも得意ではない。近所を流して楽しい車体だと考えたほうが期待とズレないと思います。

一度、乗ってみてほしい

この記事で言いたいことは、ほぼこれです。

ハーレーに興味はあるけど大きさが不安、という人にとって、アイアン883はいちばん敷居の低い入り口です。軽くて、低くて、それでいて音も鼓動もちゃんとハーレーのもの。カタログの数字を眺めているより、跨って、できればエンジンをかけてもらったほうが早いです。あの振動は文章では伝わりません。

すでに絶版なので新車では買えません。ただ2009年から2022年まで13年も作られた車体なので、中古の玉数はあります。レンタルや試乗で見かけたら、迷わず借りてみる価値があると思います。

そして、空冷スポーツスターは2022年モデルをもって一度その歴史を終えましたが、2027年モデルでの復活が発表されています。これから注目が戻ってくる車体でもあります。乗るなら、たぶん今です。

参考リンク

スペックの出典

https://h-dmediakit.com/epapi-get/pdf/bikepages/specs/2022/xl883n/specifications_xl883n_jp.pdf

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