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ミツキ
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· 約7分で読めますコラムHarley-Davidson Low Rider ST

8年ぶりに、わたしをバイク乗りにしたファットボーイと再会した話

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8年ぶりに、わたしをバイク乗りにしたファットボーイと再会した話
Harley-Davidson Low Rider ST

この記事のバイク

Harley-Davidson Low Rider ST

目次
  1. 20歳の夏、15分だけ後ろに乗せてもらった
  2. 「……あー! ミツキじゃん」
  3. ロウさんを見た瞬間、人が変わった
  4. 書く側から、触る側へ
  5. 「あんた、その格好」
  6. 伝えたら、黙られた
  7. 覚えていたのは、わたしだけじゃなかった

この記事のポイント

20歳の夏、大学の先輩に一度だけタンデムさせてもらった15分が、わたしをバイク乗りにしました。8年後、ツーリング先の道の駅で、あの日のファットボーイと偶然再会。今はハーレー専門のカスタムショップで働く先輩との、8年ぶりの会話をそのまま記事にしています。

道の駅の駐輪場で、足が止まりました。

グレーがかったオリーブみたいな色の、丸くて太いタンク。地面を押しつぶしそうな前後の極太タイヤ。ホイールが、スポークでも星型のキャストでもなく、放射状にスリットが入った円盤みたいな形をしています。

ハーレーのファットボーイでした。それも、あのホイールの形からして2018年式。ソフテイルのフレームが全部作り直されて、エンジンがミルウォーキーエイトに載せ替わった、あの年のモデルです。

その場で完全に固まりました。だって、わたしがバイクに乗り始めた理由が、目の前に停まっているので。

道の駅の駐輪場に停まっていたファットボーイ

20歳の夏、15分だけ後ろに乗せてもらった

わたしがバイクに乗り始めたきっかけは、大学の先輩に一度だけタンデムさせてもらったことでした。

2つ上の、ナギ姐さんという人です。サークルの先輩で、当時から大型に乗っていて、卒業を前にした年にファットボーイを買いました。納車されたばかりの日、たまたま部室にいたわたしを見つけて、ひとこと「乗る?」と。

ヘルメットを借りて、後ろに乗って、たぶん15分くらい走っただけです。

でも、あの15分がすべてでした。

8年前、初めてタンデムで後ろに乗せてもらった日

信号待ちで足元から伝わってくる、エンジンの重い鼓動。加速したときに体が置いていかれる感じ。風の音。前に座っている人の背中が、やけに大きく見えたこと。降りたときに脚に力が入らなくて、笑いながら「なにこれ」と言ったのを覚えています。

そこから免許を取って、中古の250から始めて、何台か乗り継いで、今は3台と暮らしています。全部あの15分から始まりました。

ナギ姐さんはその年に卒業して、連絡は自然と途切れました。SNSをやらない人だったので探しようもなくて、そのまま8年です。

「……あー! ミツキじゃん」

ソフトクリームを持った人が、こっちに戻ってきました。両手に1つずつ持っています。

日焼けした肌に、短い髪。飴色になるまで着込んだ革ジャン。8年経っていたのに、シルエットで分かりました。

「……ナギ姐さん、ですよね」

「え」

ソフトクリームを両手に持ったまま、しばらくこっちを見ていました。それから、片方の口角が上がりました。

「……あー! ミツキじゃん。うわ、久しぶり」

「うそ、ほんとにナギ姐さんだ。え、待ってください、心の準備が」

「何の準備」

笑われました。8年ぶりなのに、この軽さです。心の準備をしていたのは、どうやらわたしだけでした。

「ていうか、その手」

「ん?」

「両手にソフトクリーム持ってる大人、初めて見ました」

「ミルクと抹茶で迷ったから」

「それで両方買ったんですか」

「そう」

「変わってない……!」

思わず声が出ました。大学のときも、学食で迷った末に定食とカレーを両方頼んでいた人です。「食う?」と抹茶のほうを差し出されて、いいですと断ったら、本気で不思議そうな顔をされました。この人の中では分け合うのが親切らしいです。

両手にソフトクリームを持って戻ってきたナギ姐さん

ロウさんを見た瞬間、人が変わった

「で、今なに乗ってんの」

ロウさん(Harley-Davidson Low Rider ST)を指差した瞬間でした。

ソフトクリームを両手に持ったまま、つかつか歩いていって、そのまましゃがみ込みました。

「あー、STか。いいなこれ」

そこからが長かったです。

ロウさんの前にしゃがみ込んで語り出すナギ姐さん

リアまわりを覗き込んで「これ、ストローク56ミリしかないから、荷物積んで飛ばすとすぐ底つくでしょ。プリロードは? シート下のダイヤル回すだけだから、一段上げるだけで全然違うよ」。シートに手を置いて「ソロのままなんだ。ロングばっかり行くなら、ツーアップのやつのほうが座面が広いぶん腰にくるの遅いよ」。

そのあとフェアリングの話と、ハンドルの高さの話と、タイヤの銘柄の話が続きました。わたしは「はい」と「へえ」しか言っていません。ソフトクリームは両手で溶けていました。

「ナギ姐さん、ナギ姐さん」

「ん」

「溶けてます。あと、めちゃくちゃ喋ってます」

手が止まりました。

「……ごめん、喋りすぎた」

ばつが悪そうに立ち上がって、溶けかけたソフトクリームを慌てて舐めていました。数分前まで「え」と「ん」しか言わなかった人と、同じ人とは思えません。

そうだ、この人バイクの話になると人が変わるんだった。おかしくなって笑ったら、軽く肩を叩かれました。

ナギ

で、結局なにが言いたかったかっていうと。いいバイク乗ってるじゃん、っていう話

書く側から、触る側へ

今なにをしているのか聞いてみました。

大学を出たあとはハーレーとカスタムの専門誌を出している会社に入って、4年ほど取材と撮影をしていたそうです。それから辞めて、今はハーレー専門のカスタムショップで働いていると。

「書く側より、触る側に行きたくなってさ」

入ってから整備士の資格も取ったらしくて、そこはさすがだなと思いました。ただ、本人はあまり嬉しそうではありません。

「なのに店頭に出されるんだよ。イベントも駆り出されるし」

「絶対人気ですよね、それ」

「あたしは奥で組んでたいんだけどね」

雑誌で取材と撮影をやっていた経歴を買われて、広報みたいな仕事を任されているそうです。写真を撮るのも、店のアカウントを回すのも仕事のうち。

「じゃあ写真撮らせてください!」

「やだ」

「即答」

「え、お店のインスタ撮ってるんですよね?」

「撮るのはいいの。撮られるのが無理」

そう言いながら、わたしのスマホを取り上げて「あたしが撮る」と言い出しました。

「もうちょい下がって。うん。顎引いて。あー、いいじゃん」

気づいたらロウさんの横でポーズを取らされていて、10枚くらい撮られていました。あとで見返したら、自分で撮ったどの写真より明らかに良かったです。ちょっと悔しい。

ナギ姐さん本人は、粘って3枚だけ撮らせてくれました。そのうち1枚は、あとから確認されて消されました。

「あんた、その格好」

並んで自販機の前に立ったとき、いきなり言われました。

「あんた、その格好」

「え」

「あたしと一緒じゃん。色が違うだけで」

言われて、初めて気づきました。

黒い革ジャンに、白いタンクトップ、色落ちしたデニム、エンジニアブーツ。ナギ姐さんは同じ組み合わせを、飴色の革と生成りで着ています。並ぶと、シルエットがそっくりでした。

「……あ」

「な」

「いや、これは、その」

顔が熱くなりました。8年かけて少しずつ買い足して、自分の形にしてきたつもりだったんです。全部、あの日見た背中でした。

「気づいてました?」

「今気づいた」

そう言って、また片方の口角だけ上げて笑われました。ずるい。

伝えたら、黙られた

帰り際に、言っておこうと思いました。8年間、一度も伝えられなかったので。

「あの日がなかったら、わたしバイク乗ってないです」

ナギ姐さんは黙りました。

さっきまでソフトクリームを溶かしながら喋り倒していた人が、急に黙ったんです。こっちが焦りました。重かったかな、と思って。

それから、短く返ってきました。

「……そっか」

「じゃあ、乗せてよかった」

それだけです。感動的なことは何も言われませんでした。でも、たぶんこの人はそういう返し方しかしない人で、だからこそ本当なんだと思いました。

ちょっと泣きそうになったので、慌てて自販機のほうを向きました。

覚えていたのは、わたしだけじゃなかった

連絡先を交換しながら、ずっと聞きたかったことを聞いてみました。整備の話です。

「わたし、電装だけどうしても駄目で。配線図を見ると頭がバグるんです」

「あー、いるいる、そういう人」

「お店、そういうのも見てもらえますか」

「見るよ。持っといで。工賃はまけないけど」

ナギ

電装だけは無理しないこと。あそこ触って燃やした人、何人か知ってるから

「そこはまけてくださいよ」

「まけない」

それから、思い出したように言われました。

「あんた、あのとき腰抜かしてたじゃん」

「え」

「降りたあと、脚に力入んなくて笑ってたでしょ。あれ見て、こいつ絶対バイク乗るなって思ったんだよね」

わたしだけが覚えている15分だと思っていました。そうじゃありませんでした。

「オイル交換くらいは自分でやりなよ」

「やってますー」

「だろうね。さっきの話しぶりで分かる」

ファットボーイのエンジンがかかって、あの重い鼓動が地面から伝わってきました。20歳のわたしを持っていったのと同じ音です。

手を上げて、走っていきました。振り返りもしません。相変わらずでした。

ファットボーイで走り去るナギ姐さんを見送る

ナギ姐さんは「じゃあ、また今度」で本当に終わらせる人です。8年前がそうでした。

なので今回は、こっちから連絡します。

ミツキ

バイクを始めるきっかけをくれた人って、みんなにもいるのかな。よかったら教えてね

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GARAGE 3 のバーチャルナビゲーター

ロウさん・ハチ・カブちゃん、3台と暮らす運営者の体験を、わたしの目線でお届けしてるよ!

執筆・編集: GARAGE 3 編集部

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